映画『ファーストキス』で、松たか子さんの演技が多くの心を掴んだのはなぜでしょうか?
夫を亡くした妻が過去へ戻り再び恋する…
そんな非現実な設定が、松さんと松村北斗さんの自然な演技で、誰もが共感できるリアルな夫婦の物語になるんです。
この感動を呼ぶ演技の秘密を、考察してみました。
松たか子が演じた妻・カンナの存在とは
映画『ファーストキス』で松たか子さんが演じた硯カンナは、結婚15年目で夫を事故で亡くした45歳の女性です。
倦怠期で夫との関係に冷めきってしまっていた彼女が、突然のタイムトラベルによって29歳の自分として15年前の世界に戻るという複雑な役どころでした。
登場シーンから感じられる”静けさ”の演技
映画の冒頭、宅配便に起こされるカンナの朝のシーンから、松たか子さんの演技が光ります。
宅配便に起こされる朝、三年待ちのお取り寄せ、焦げた餃子、伴侶はいなくなったけれど物であふれている部屋。
セリフでは言及されていなくても、そんなところから言葉に出来ない、声にしない思いが滲み、よけいに沁みるという坂元裕二の脚本の意図を、松たか子さんは表情と仕草だけで見事に表現しました。
散らかった部屋で一人暮らしをするカンナの様子から、夫を失った喪失感と同時に、長年の倦怠期で冷めきっていた関係性までもが伝わってきます。
この静かな演技こそが、後に訪れるタイムトラベルでの感情の変化をより印象的に見せる土台に。
表情と間の使い方が引き出す感情の深み
松たか子さんの演技で特筆すべきは、表情の細やかな変化と間の使い方です。
過去に戻ったカンナが、若い頃の夫・駈(松村北斗)と再会するシーンでは、驚き、戸惑い、そして徐々に蘇る恋心が、言葉を発する前の表情だけで巧妙に表現されています。
もしこれが別の人が演じていたら、カンナは若作りイタいおばさんになっていたかもしれないという観客の感想がありました。
松たか子さんは年齢差を感じさせない自然な演技で、29歳のカンナとしての魅力を見事に表現。
松たか子さんだったからこそ、より魅力的な作品になったのだと思います。
坂元裕二作品ならではの”静かな会話劇”と相性
松たか子さんの演技が高く評価される理由の一つは、坂元裕二脚本の特徴である静かな会話劇との相性の良さ。
松たか子さんは『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』に続き、坂元作品への出演は4作目。
『カルテット』『最高の離婚』との共通点
夫婦や恋人たちの何気ないやり取りの中に人生の機微を映し出し、その巧みなセリフ回しは視聴者の心を掴んで離さないのが坂元裕二作品の特徴です。
『カルテット』では松たか子さん、満島ひかりさん、高橋一生さん、松田龍平さんの4人が奏でる会話劇が話題となり、『最高の離婚』では瑛太さんと尾野真千子さんの夫婦の掛け合いが印象的でした。
『ファーストキス』でも、カンナと駈の何気ない会話の中に、結婚生活の機微や夫婦の愛の形が丁寧に描かれています。
松たか子さんの演技は、坂元裕二が描く女性像を安定感をもって体現し、観客を自然に物語へ引き込む力があるのです。
沈黙にこそ意味がある脚本と演技の調和
「全部を全部、説明しなくても、坂元さんの脚本は雄弁だから大丈夫かなって」と塚原あゆ子監督が語ったように、坂元作品では説明的なセリフよりも、シチュエーションや沈黙が丁寧に描かれています。
松たか子さんは、この「語られない部分」を表情や仕草で補完する演技力が最大の強みなんです。
カンナが過去で駈と過ごす時間の中で、言葉にならない複雑な感情を、松たか子さんは微細な表情の変化で見事に表現し、多くの観客が魅了されました。
SNSや観客の反応から見る演技の評価
映画公開後、SNSや各種レビューサイトで松たか子さんの演技に対する賞賛の声が数多く寄せられています。
「抑えた感情がリアルすぎる」との声
松たか子さんと松村北斗くんの圧倒的ナチュラルな演技力によるものでしょう。
いい意味で、個性が立ちすぎていないので、観る側はすんなり物語に集中できるという観客の感想が多く、松たか子さんの演技の自然さが高く評価されています。
特に多かったのが「感情を滲ませるような演技」への称賛です。
激しい感情の起伏を見せるのではなく、抑制の効いた演技で内面の複雑さを表現し、多くの観客が魅了されています。
「演技というより実在していた」と評された理由
・めちゃくちゃ泣きました。
・松たか子かわいらしすぎる2回観て2回とも号泣。
・愛の伝え方、言葉の言い回しが大好き
など、観客の心を強く動かしたことがレビューからもうかがえます。
Filmarksでは平均スコア4.2点、レビュー数22,064件という高評価を獲得しており、松たか子さんの演技が作品の感動を支える重要な要素となっていることが数字からも明らかです。
松たか子が「賞レースで急浮上している」と映画関係者の間で話題という報道もあり、業界内での評価も非常に高いものとなっています。
松たか子の過去作品との違いと成長
松たか子さんの演技を語る上で、過去作品との比較は欠かせません。映画『ファーストキス』では、これまでの作品とは異なる新たな魅力を見せています。
『ラストレター』や『カルテット』との比較
『ラストレター』(2020年)では、一人二役で姉妹を演じた松たか子さん。
しかし、『ファーストキス』では、さらに大人になった女性の気持ちを、ずっと奥深く演じているんです。
また、『カルテット』では謎めいた魅力を持つ女性を演じましたが、今作のカンナはより身近で親しみやすい存在として描かれています。
松たか子さんでないと出来ない役どころの作品。
松たか子の新たな代表作となることは間違いないと公式サイトでも言及されているように、これまでの松たか子さんの演技の集大成ともいえる作品となっています。
年齢・母親役としてのリアリティの深化
47歳を迎えた松たか子さんが演じる45歳のカンナには、年齢を重ねた女性ならではのリアリティがあります。
結婚生活の現実、夫への複雑な感情、そして失ってから気づく愛の大切さなど、人生経験を積んだからこそ表現できる深みが演技に表れているんです。
20代の頃を演じた松たか子さんは、昔のドラマの頃のようでめちゃくちゃ綺麗だったという観客の感想にもあるように、ビジュアル面でも29歳の役を説得力を持って演じきっており、演技力の高さの表れだと感じました。
まとめ|静かな演技に込められた”叫び”
映画『ファーストキス』における松たか子さんの演技は、派手な演出や大げさな表現に頼らず、静かで自然な表現の中に深い感情を込めた秀逸なものでした。
事故で夫を失い、タイムトラベルで過去に戻って再び恋をするという非現実的な設定を、リアルで身近な物語として成立させたのは、間違いなく松たか子さんと松村北斗さんの自然体な演技力によるものです。
ファーストキスでの松たか子さんの演技は、坂元裕二さんの脚本の世界観を体現し、観客の心に深く響く感動を生み出しました。
抑制の効いた演技の中に込められた感情の豊かさこそが、この作品を単なるタイムトラベル映画ではなく、普遍的な愛の物語として昇華させた最大の要因だったと思います。