映画『ファーストキス』で吉岡里帆さんが演じる天馬里津は、単なる脇役にとどまらない、物語に深みを与える存在です。
松たか子さん演じるカンナの夫・駈への想い、そしてタイムスリップによって変わる運命の中で、二人の女性が静かに向き合う姿は、観る人の心を強く揺さぶります。
吉岡里帆が演じた天馬里津の複雑な想い

運命の出会いが生んだ後悔の念
「ファーストキス」において、吉岡里帆さんが演じる天馬里津は、松村北斗さん演じる硯駈に院生時代から密かな想いを寄せてきた女性です。
物語の重要なポイントとなるのが、駈が亡くなる日に偶然彼と出会ったということ。
その日の駈は疲れきった表情を浮かべており、決して幸せそうには見えませんでした。
この瞬間が里津の心に深い傷を残し、「もし自分が彼と結婚していたら、彼をもっと幸せにできたのではないか」という想いが芽生えます。
吉岡里帆さんが演じる役は単なる恋敵にとどまりません。
彼女もまた、カンナと同じように駈を心から愛し、彼の幸せを本気で願う存在です。
里津が抱える複雑な感情は、観客に「もしも違う選択をしていたら――」という人生の分岐について深く考えさせます。
真面目で控えめな性格が物語に与える深み
天馬里津は大学教授の娘で、真面目で控えめな性格。
彼女は駈を奪おうとする強引な女性ではないんです。
自分の想いを胸に秘めながら、相手の幸せを最優先に考える誠実さが伝わってきます。
感情的にならず、静かに気持ちを伝える里津。
この役の繊細さや奥ゆかしさを見事に表現しています。
吉岡里帆さんの控えめだけど真っ直ぐな想いに共感し、カンナと里津それぞれに感情移入しながら観ていました。
松たか子との静かな対峙と心の交流
カンナが里津に見せた優しさと理解
最も印象的なシーンの一つが、松たか子さん演じるカンナと吉岡里帆さん演じる里津の対峙です。
タイムスリップによって過去に戻ったカンナは、「夫を救うためには自分と出会わせない方が良いのではないか」と考え、駈を里津と結びつけようとします。
この時のカンナは単に身を引くのではなく、里津に対して駈に好かれるコツを丁寧に教えます。
駈が好きな食べ物や話題、彼が落ち込んだ時にどんな言葉をかけてもらいたいかなど、妻だからこそ知っている細かな情報を伝えました。
この行動は、自分の幸せよりも夫の幸せを優先するという究極の愛の形。
二人の女性が共有する純粋な想い
カンナと里津の会話は決して感情的にならず、静かで上品でした。
両者とも駈を心から愛し、彼の幸せを願っているという共通点があったからです。
「ファーストキス」で描かれるのは恋愛の奪い合いではなく、二人の女性の間に生まれる理解と共感。
この静かな対峙のシーンで、吉岡里帆さんは里津の心の動きを表情や仕草で繊細に表現しています。
最終的に自分なりの決断を下す時の凛とした姿は、多くの観客の心に残るものとなりました。
タイムスリップが描く愛と選択の物語
「もしも」の人生が与える深いメッセージ
吉岡里帆さんの役である里津は、まさに「もしも」の人生を象徴する存在です。
この物語の素晴らしい点は、どの選択が正しいかという答えを明確に示さないこと。
吉岡里帆さんは、駈への想いを諦めきれない気持ちと、カンナの愛の深さに感動する気持ち、そして自分なりの答えを見つけようとする強さを見事に演じ分けていました。
運命と選択の間で揺れ動く心
里津もまた、カンナから駈について教えてもらいながら、自分の気持ちと向き合います。
彼女が駈に抱いていた想いは本物でしたが、同時にカンナと駈の間にある深い絆も理解していました。
吉岡里帆さんは、この複雑な心境を見事に演じ分けています。
映画が伝える普遍的なテーマ
愛の多様性と深さ
「ファーストキス」で描かれる愛は、単純な恋愛感情を超えた深いものです。
カンナの夫への愛、里津の駈への想い、そしてお互いを理解し合う女性同士の絆がすべて描かれています。
吉岡里帆さんの役は、愛の多様性を表現する上で欠かせない存在です。
人生に正解はないという真実
「ファーストキス」が伝えるメッセージは、人生に絶対的な正解はないということ。
カンナの選択も里津の想いも、どちらも間違いではありません。
それぞれが自分なりの答えを見つけ、その選択に責任を持って生きていく姿が描かれています。
私はこの物語を観て、「人生に絶対の正解はない」と改めて感じました。
どちらも本気で人を想い、悩み、選択する姿が胸に響きます。
まとめ
映画『ファーストキス』で吉岡里帆さんが演じる天馬里津は、物語に深い陰影をもたらす重要な存在です。
駈が亡くなる日の疲れた表情に寄せる想い、カンナとの静かな対峙、そして最後に自分なりの決断を下す姿――その一つひとつが、観客に「人生の選択」や「愛の本質」について改めて考えることになります。
『ファーストキス』はタイムスリップという設定を取り入れながらも、最終的に自分で正解を模索し、決断する物語。
吉岡里帆さんが真摯に演じたからこそ、この映画は単なるラブストーリーを超え、人生そのものを見つめさせる深い作品として完成したのだと思いました。
