2017年に放送されたドラマ『カルテット』は、脚本・演出・音楽のすべてが絶妙に調和した作品。
何より光っていたのは豪華キャスト陣の絶妙なアンサンブルでした。
松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平という主演4人はもちろん、吉岡里帆やもたいまさこなど脇を固めるキャストまで、全員が作品の世界観を見事に体現していたのです。
今回は、そんな『カルテット』を彩った俳優陣の知られざる魅力について深く掘り下げていきます。
松たか子:巻真紀(早乙女真紀)役 – 坂元ワールドの申し子
松たか子の唯一無二の存在感
松たか子さんといえば、歌舞伎界の名門出身でありながら、女優として独自の道を切り開いてきた稀有な存在です。
『カルテット』での巻真紀役では、極端にネガティブでありながらどこか憎めない、複雑な女性を見事に演じ切りました。
「人生には、3つの坂がある。上り坂、下り坂、まさか」という名セリフを自然に言えるのは、松たか子さんだからこそ。
出典:『カルテット』第1話/巻真紀(松たか子)
彼女の持つ独特の間と、どこか浮世離れした雰囲気が、坂元裕二さんの描く女性像と完璧にマッチしていました。
坂元裕二との長年の信頼関係
実は松たか子さんと坂元裕二さんの関係は『カルテット』が初めてではありません。
過去にも何度かタッグを組んでおり、お互いの特性を熟知している関係性があります。
松たか子さんは坂元さんの描く女性の心の機微を表現することにかけては右に出る者がいないといっても過言ではないでしょう。
『カルテット』での真紀というキャラクターは、表面的には弱々しく見えながら、実は芯の強さを持っている女性でした。
この複雑な人物像を、松たか子さんは声のトーンやちょっとした表情の変化で見事に表現していました。
満島ひかり:世吹すずめ役 – 天真爛漫さの中に潜む深み
満島ひかりの演技の振り幅
満島ひかりさんが演じた世吹すずめは、一見すると天真爛漫で自由奔放なキャラクターでした。
しかし、満島さんの演技には常に計算された深みがあります。
「みぞみぞしてきました」という口癖一つとっても、ただ可愛らしいだけでなく、すずめという人物の内面の複雑さを表現していました。
出典:『カルテット』第1話など多数/世吹すずめ(満島ひかり)
満島さんの魅力は、その自然な演技。
台本に書かれた言葉を、まるで自分の言葉のように話す技術は群を抜いています。
『カルテット』でも、他の3人との会話の中で見せる反応の一つ一つが、すべて計算されていながら自然に見えるのです。
音楽との関係性
『カルテット』は弦楽四重奏がテーマの作品でしたが、満島さんは実際にチェロを演奏するシーンも多くありました。
楽器を弾く姿の美しさもさることながら、音楽に向き合う時の表情の変化が印象的でした。
普段の無邪気さとは違う、真剣な眼差しを見せることで、すずめというキャラクターの多面性を表現していました。
高橋一生:家森諭高役 – 理屈っぽさの奥にある愛おしさ
高橋一生の絶妙なバランス感覚
高橋一生さんが演じた家森諭高は、理屈っぽくて少しめんどくさい男性でした。
しかし、高橋さんの演技の巧みさは、このめんどくささを愛おしく見せてしまうところにあります。
特に印象的だったのが、例の「唐揚げレモン論争」のシーンです。
「レモンかけていいですか?」…(唐揚げレモン論争)
出典:『カルテット』第2話/家森諭高(高橋一生)
一歩間違えれば単なる嫌な男になってしまいそうな場面を、高橋さんは絶妙なさじ加減で演じていました。
真剣に語る表情と、どこか子どもっぽい一面を同時に見せることで、家森というキャラクターの魅力を最大限に引き出していました。
繊細な演技の積み重ね
高橋一生さんの演技の特徴は、繊細さ。
大きな感情の爆発よりも、微細な表情の変化で心情を表現することを得意としています。
『カルテット』でも、他のキャラクターの言葉に反応する時の眉の動きや、視線の移し方一つ一つに意味を込めていました。
片思いの相手であるすずめを見つめる時の表情や、有朱に翻弄される時の困惑ぶりなど、言葉にしない部分での演技が光っていました。
松田龍平:別府司役 – クールな外見の下にある温かさ
松田龍平の独特な存在感
松田龍平さんが演じた別府司は、4人の中で最も謎めいたキャラクターでした。
世界的指揮者の祖父を持つという設定もありましたが、松田さん自身が持つ独特の雰囲気が、このキャラクターに深みを与えていました。
松田さんの演技の魅力は、その控えめな表現力にあります。
決して前に出すぎることなく、しかし確実に存在感を示す技術は見事でした。
『カルテット』でも、他の3人の個性的なキャラクターの中で、バランスを取る役割を見事に果たしていました。
音楽への理解と表現
別府司はバイオリン奏者という設定でしたが、松田さんの楽器を弾く姿にはとても説得力がありました。
実際に音楽に造詣が深いかどうかは分かりませんが、音楽に向き合う時の真剣な表情や、仲間との合奏を楽しむ様子が自然に表現されています。
吉岡里帆:来杉有朱役 – 破壊的な魅力の体現者
魔性の女を演じ切った演技力
吉岡里帆さんが演じた来杉有朱は、『カルテット』の中でも特に印象的なキャラクターでした。「目が笑っていない」という設定を、吉岡さんは見事に体現していました。
吉岡さんの演技の特徴は、表面的な美しさの下に潜む計算高さを自然に表現できることです。
有朱というキャラクターの持つ破壊力を、過度に悪役にすることなく、どこか憎めない魅力として見せていました。
「人生、ちょろかった」の衝撃
最終話での「人生、ちょろかった!」というセリフは、多くの視聴者に強烈な印象を残しました。
出典:『カルテット』第10話(最終回)/来杉有朱(吉岡里帆)
このセリフを言い切った吉岡さんの演技力は、単なる美貌を超えた実力の証明でもあったと感じています。
もたいまさこ:巻鏡子役 – ベテランの安定感
脇役に命を吹き込む技術
もたいまさこさんが演じた巻鏡子(真紀の姑)は、出番はそれほど多くありませんでしたが、強烈な印象を残すキャラクターでした。
息子の失踪に関して真紀を疑う姑という難しい役どころを、もたいさんは絶妙なバランスで演じていました。
ベテラン女優としての安定感と、キャラクターの持つ複雑さを両立させる技術は、さすがとしか言いようがありません。
宮藤官九郎:巻幹生役 – 脚本家が俳優として参加する意味
クドカンの俳優としての魅力
脚本家として有名な宮藤官九郎さんが、真紀の失踪した夫・幹生役で出演していたのも話題でした。
クドカンさんの俳優としての魅力は、その自然体な演技にあります。
作家としての経験が、キャラクターへの理解の深さにつながっているのかもしれません。
限られた出番の中で、夫としての複雑な心境を表現していました。
カルテット キャスト陣の絶妙なアンサンブル
4人の主演キャストの化学反応
『カルテット』の最大の魅力は、4人の主演キャストが作り出す絶妙なアンサンブル。
それぞれが個性的でありながら、一緒にいる時の自然さが見事でした。
特に食事のシーンや何気ない会話のシーンでは、本当に長年の仲間のような親密さを感じさせていました。
これは俳優陣の演技力もさることながら、お互いへのリスペクトがあってこそ生まれる化学反応だったのではないでしょうか。
坂元裕二の会話劇を支える技術
坂元裕二さんの脚本の特徴である「会話劇」を成立させるためには、俳優の高い技術が必要です。
『カルテット』のキャスト陣は、全員がこの要求に見事に応えていました。
特に、日常会話の中に隠された深い意味を表現する技術や、セリフにないところで感情を表現する技術などは、本当に見事でした。
まとめ
『カルテット』は、脚本や演出、音楽などどれを取っても完成度の高い作品でしたが、やっぱり一番の魅力はキャスト同士の“絶妙なハーモニー”だったと思います。
あの4人だからこそ生まれた空気感が、ドラマ全体をより深く、味わい深いものにしていました。
主演の4人はもちろん、脇を固める俳優陣に至るまで、全員が作品の世界観を深く理解し、それぞれの役割を完璧に果たしていました。
松たか子さんの繊細さ、満島ひかりさんの自然体な魅力、高橋一生さんの計算された演技、松田龍平さんの独特な存在感、そして吉岡里帆さんの破壊的な魅力。
すべてが絶妙にバランスを取っていました。
今あらためて見返しても『カルテット』の魅力がまったく色あせていないのは、やはりあの豪華キャスト陣の存在があってこそだと思います。
そして、彼らが生み出した絶妙な“化学反応”こそが、この作品を長く語り継がれる名作へと押し上げた最大の理由なのではないでしょうか。